内科 赤羽岩淵診療所 since 2016
ドクターズファイルによるインタビュー記事
赤羽岩淵駅から徒歩1分のところにある、「赤羽岩淵診療所」。所長の大谷一晃先生は、生まれも育ちも赤羽で、祖父・父・妹は同じ赤羽で仕事をする歯科医師だ。同じビル内にある妹の歯科医院とは、患者を紹介し合うなど連携、協力してより良い医療の提供をめざしている。診療科にとらわれず地域住民の健康をサポートする家庭医療が専門の大谷先生は、掲げている内科はもちろん、病気かどうかわからない健康問題全般の相談を受けつけ、幅広く対応。北区の高齢者を支援する事業にも医師として参画し、地域に根差す開業医として地元に貢献している。患者とのふれあいが何よりうれしいと語る大谷先生に、長年住み慣れた地域に対する思いや診療方針について話を聞いた。
(取材日2023年3月17日)
家庭医療の専門家として、健康問題全般に幅広く対応
@開業してからの約6年間で、診療所としての変化などはありましたか?
特に後半の3年間、新型コロナウイルス感染症の対応として発熱症状を専門に診る外来を始めたのが一番大きな変化です。この周辺では、比較的長く診療しておられる先生方が多く、定期的に検査などで通う患者さんを多く診ていらっしゃるんです。忙しいクリニックが、熱がある方を突発的に診るのは厳しいですし、かかりつけの患者さんの外来が滞ってしまいます。それに比べて当診療所はまだ開業して日が浅く、受け入れに余裕がありました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大という緊急事態に、開業間もない診療所でも担うことができる役割として、発熱症状の患者さんにも対応することにしたのです。周囲の先生方から熱がある患者さんをご紹介いただくことで、少しでもお役に立てればと思っています。
@こちらの診療所では、どのような患者さんが多くいらっしゃいますか?
年齢的には、生後間もない乳児の患者さんから、90代の高齢の方までいらっしゃいます。症状としては、新型感染症については少し落ち着いてきたものの、インフルエンザも含め、まだまだ発熱症状でいらっしゃる患者さんが一番多いですね。私は家庭医療を専門に診療経験を積んできましたので、特定の部位や症状に限らず、基本的にはどんな年齢、主訴の患者さんも受け入れるようにしています。
@家庭医療とはどのような分野なのですか?
地域の皆さんの健康のために総合的に診療する医療のことです。具体的な病気に限らず、予防や心理的な不安、社会的問題も含め、家庭の状況まで重視しながら丸ごと診ることが求められる分野で、例えば高齢の方が「一人暮らしが不安だ」という理由で受診されるのも対象です。そうしたご相談の場合、私たち家庭医療を専門とする医師は、なぜ一人暮らしが不安なのか、健康に何か問題があるのか、そういうところから探っていくんです。そもそも病気なのかどうかもわからない症状も含め、健康全般のご相談に乗る、というイメージですね。お話を伺って診察をし、専門の診療科に診ていただいたほうが良い場合はほかの医療機関をご紹介します。何科に行った良いかわからないという患者さんの窓口として、必要に応じて専門的な治療を受けられるよう振り分ける役割も担えればと思っています。
地元の高齢者支援にも参画、開業医として地域に貢献
@開業にあたって、この場所を選んだのはどのような理由があったのでしょうか?
私自身、赤羽で生まれて赤羽で育った、いわゆる生粋の地元民なんです。私の祖父も父も、赤羽で歯科医師をしていたので、自分もいつか、この住み慣れた街で一緒に仕事をしたいとずっと思っていました。今は、祖父や父の歯科医院に通っていた方が、お子さんやお孫さんも含めて家族で診療所に来てくださることもあるんですよ。赤羽は、住んでいる皆さんが温かいイメージがありますね。私の妹も同じビルで歯科医院を開業していて、内科を診る当診療所と連携して患者さんを診ているんですよ。
@具体的には、どのような連携をしているのでしょうか?
妹の歯科医院とは、新型コロナウイルスの感染拡大以降、より結びつきが強くなったと思います。歯科医院に風邪気味の患者さんがいらっしゃった際は、当診療所ですぐに検査ができますし、体調が悪いスタッフの検査も行えます。歯科医院での院内感染を防ぐためのガイドラインづくりも医師として協力しました。同じビルの中にあるので、歯の治療に来るついでに、併せて当診療所に寄ってくださる患者さんもいます。それから、新型コロナウイルス感染症以外でも、口の中に関して心配がある患者さんを紹介したり、逆に体のことで何か相談事がある患者さんを紹介してもらったり、普段からお互いに協力できます。今後も連携をしながら患者さんに良い治療を提供していきたいですね。
@地元の北区の事業にも医師として参加していると伺いました。
北区が高齢者支援事業の一つとして、認知症の疑いがある方をサポートする、初期集中支援チームというものを設置しているんです。地域包括支援センターに、医師や介護福祉士などで構成されるチームをつくって、認知症が疑われる方のご家庭を訪問して生活をサポートするものです。私は医師として参加していて、当診療所でほかのクリニックの先生方や福祉関係の方など、チームの関係者と会議をすることもあります。地域の開業医としてできることがあれば、地元の皆さんと協力して貢献したいと思っています。
温かいこの街で、継続して医療を提供したい
@診療で患者さんと接する上で、大事にしているポリシーはありますか?
高齢の患者さんに対して、「年齢のせいにしない」ということを常にお伝えするよう心がけています。不調があっても高齢だから仕方がないと思わずにきちんと検査をすると、大きな病気が見つかるかもしれません。検査をするのは患者さんの権利です。その権利を行使するかどうかはご本人の選択によりますが、私自身も患者さんの不調や気になる点を年齢のせいだと思い込まずに、必要な際は検査をご提案するようにしています。患者さんが「年のせいですかね」とおっしゃったときは、「そんなふうにおっしゃると、私たちの仕事がなくなってしまいますよ」とお返事するようにしています(笑)。
@医師になって良かったと感じるのは、どんな時でしょうか?
仕事以外で家の近所を歩いている時などに、たまたますれ違った患者さんから声をかけてもらうことがあるんです。地域の開業医として、皆さんとつながりができてきたことを感じて、なんだかうれしくなりますね。「最近どうですか」なんてちょっとした立ち話をするのが、自分の中の楽しみでもあります。先日は、患者さんから診療所に本を寄贈していただいたこともありました。ほかの方にも読んでいただけたらと思い、診療所の待合室に置いてあります。地元の患者さんが本当に温かいので、この街に開業して良かったとあらためて感じています。
@最後に、地域にお住まいの方々にメッセージをお願いします。
長年住み慣れたこの場所で、地域に根差した診療所として、長く医療を提供し続けていきたいと思っています。開業以来、新型感染症の流行などいろいろなことがありましたし、長く続けていると今後も外の環境が変わることがあるでしょう。この6年の間でも、発熱症状の患者さんのための外来を設けたり、スタッフの数を増やしたり、いろいろと診療所も変化をしています。継続するために変化する、といいますか、この街で長く医療を提供し続けるために、周囲の変化に柔軟に対応していきたいと思っています。病気かどうかわからない、漠然とした健康問題の不安でもご相談に乗りますので、地域の皆さんにはぜひ気軽に来ていただきたいですね。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
赤羽岩淵駅から徒歩1分の「赤羽岩淵診療所」は開院して半年余り。所長の大谷一晃先生は「地域の健康よろづ相談所」をめざして、日々診療に臨んでいる。風邪や腹痛、生活習慣病といった身近な悩みはもちろん、健康に関する相談に幅広く応えて病気を未然に防ぐことを理想とし、一人ひとり丁寧に診療することをモットーに、主訴以外にも患者が気になっていることをくみ取る診療を心がけている。西洋医学に漢方や灸といった東洋医学を合わせて悩みの解消を図っていることも特徴だ。「生まれ育った赤羽の人から信頼されるかかりつけ医になりたい」と話す大谷先生に、めざす診療や、同じビル内にある歯科医院との連携について聞いた。
(取材日2017年1月31日)
主治医がいることは一石三鳥
@どんなクリニックをめざしているのでしょうか?
「地域の健康よろず相談所」でありたいと考えています。もちろん当院は内科を標榜しているので、風邪や腹痛、生活習慣病など各症状や病気の治療は行うのですが、「家族のもの忘れがひどくなったけど原因は何だろう」など、ご自身やご家族の健康で気になることを気軽に相談していただけるクリニックでありたいと思っています。例えば、高血圧症の患者さんで、お父さまの介護で悩みを抱えている方がいました。僕は北区の介護認定の審査員も務めているので、そんなときには介護保険の申請や在宅医療の利用を勧めるなどして、何らかのアドバイスをするようにしています。自分の症状についてどの科に相談したらいいかわからない時もご相談いただけるとうれしいですね。
@先生がめざすのは、地域のかかりつけ医という理解でよいでしょうか?
そうですね。患者さんの主治医になりたいと思っています。というのも、東京の医療は専門化が進んでいて、科で分断されているので、主治医が不在のときがあるんです。糖尿病は○○大学の△△教授、高血圧症は□□病院、腰痛は◎◎病院の整形外科、といったように、患者さんを全体的に診療している医師がいない場合があるんですね。当院はここのバランスをとりたいと考え、診療所レベルで解決できることは、こちらで治療をして患者さんの悩みを解消し、逆に専門科が必用な際は適切な医療機関をご紹介するようにしています。主治医がいることは一石三鳥なんです。患者さんは待ち時間が減って、病院の医師の負担も減ります。複数の科を受診していて効果がかぶっていたり、逆にお互いに効果を打ち消し合っている薬があればそれを整理することで医療費も削減できます。それに80歳、90歳のご年配の方であれば遠方の医療機関に通うのは大変ですからね。
@診療時にはどんなことを心がけていますか?
1人ひとり丁寧に診療することを大切にしています。患者さんの主訴をしっかり聞くことはもちろん、病気に付随したちょっとしたこともくみ取れることが理想です。医師にわざわざ言うことじゃないけど、でも実は前々から気になっている。意外とこんなことは多いんです。そこをすくい上げたい。例えば先ほど受診された女性の方は皮膚に関するご相談だったのですが、鼻水も気にされているようでしたので「まずは鼻水を止めるお薬を出しますね。薬を飲みきったあとまた鼻水が出てきたら、この時期だと花粉症の可能性があるのでまた対応を考えましょう」とお伝えしました。こういったやり取りが僕は好き。それと、担当する医師が変わらないことが患者さんの安心感につながると思うので、数は診れないかもしれないけれど、今後も1診体制を継続しようと考えています。
祖父から続く歯科一家、妹の歯科医院とも連携する
@2階の歯科医院「赤羽岩淵ニュー大谷歯科」と連携しているそうですね。
ええ。そちらは僕の妹が運営している歯科医院です。僕たちはもともと、祖父から続く歯科一家で、妹が父の後を継ぎました。お互いに患者さんを紹介し合っていて、例えば診療時に患者さんの口の中に虫歯が見えたときや、食べ物を飲み込みづらいというお年寄りの方が来られたときなどは妹に相談しています。口の中をきれいにしたり、口や喉の筋力トレーニングをしたりすることで誤嚥や誤嚥性肺炎を防げることもあります。逆に妹から紹介されるケースとしては、口内炎ができていたり粘膜がぶよぶよになっていたりして腎不全が疑われる場合など。口の中は人の体の中で数少ない、目視できる粘膜ですから、全身疾患と密接につながっているのです。
@歯科の家でしたのに、先生はなぜ医師の道を進まれたのですか?
僕は今もそうですが、一度も虫歯になったことがないんです。高校1年頃まで何となく家を継ぐものだと思っていたのですが、父から「虫歯になったことがないから、歯科医師はやめておいた方がいいね」と言われ、確かにそうだなと。それで歯科と領域の近い医師になろうと思い、1年間浪人して昭和大学に進みました。卒業後は救急医療を中心に研修していたのですが、次第に「そもそも、救急車で運ばれる人を減らしたほうがいいのではないか」と思うようになったんですね。地域の健康に携わりたい思いが強くなり、今に至るわけです。
@漢方やお灸を取り入れ、病気の予防についてもアドバイスしているそうですね。
西洋医学だけでは対応できない場合、漢方やお灸が有効な時があります。西洋の薬と漢方を併用するほか、腰痛や肩こりの患者さんで希望する方にはお灸を使って痛みの緩和を行っています。お灸は、僧侶であり鍼灸師の資格も持っているというユニークな先輩医師に教わりました。お灸は鍼に比べて患者さんから怖がられないのでよく使います。薬の量を減らしたいので、予防に関するアドバイスも積極的に行っています。腰痛や生活習慣病などの患者さんには自宅でできる運動方法をお伝えしています。膝が悪くて歩きづらい方にはテレビを見ながらでもできる上半身の運動を勧めるなど、患者さんに合った具体的なアドバイスを心がけています。また、近くの赤羽岩渕病院の非常勤医として訪問診療も行っています。
地域の健康寿命を伸ばしたい
@開業してから印象に残っているエピソードなどはありますか?
60代の患者さんから「先生にはうちの父も診てもらってるから安心」と言われたときですね。かかりつけ医として家族を診ている実感があるとともに、患者さんから信頼されていることがうれしくてぐっときました。僕はここで育ったので思うんですが、赤羽には情が深い方が多いんです。下町っぽい良さがあるといいますか。ご年配の方が同じ年代のご友人を連れて来られることもあるんですよ。家族から好かれる医師というのは今後もめざしたいですね。赤羽で好きなのは飲み屋が並ぶ駅そばの赤羽一番街商店街。スタッフや妹と診療終わりに商店街の居酒屋で飲むこともありますよ。
@お忙しい中、休日はどのように過ごされていますか?
勉強会に参加するなど、休みの日も仕事に関わることが多いですね。開業医はともすれば独りよがりの診療に陥ってしまう恐れがありますから、なるべく時間をつくって知識を増やし、スキルをアップデートしていく必要があると思います。後は小説を読んだり、太極拳をしたり。僕は大学時代に部活で少林寺拳法を習っていたので、その流れで太極拳に興味を持つようになりました。渋谷にある道場に通うほか、診療が終わった後に院内でやる時もあります。太極拳は護身と健康を兼ねているところがいいですね。体が楽になって疲れが取れます。まだ2段でさらなる上達をめざしている段階ですが、10年後くらいには患者さんにも健康法として教えられるようになれるといいですね。
@最後に、改めて今後の展望をお聞かせください。
地域の健康寿命を伸ばすお手伝いをしたいと考えています。そのためにも生活習慣病になる前からアプローチしたいですね。僕は、風邪って医師と患者さんが出会うきっかけのひとつだと思っているんです。身近な病気になって当院を受診されたことを機に健康に関するいろいろなお話をして、患者さんに健康への興味を持ってもらいたい。僕はこれから60年はこちらで院長を務めたいと思っています。かかりつけ医をお探しの方はぜひ一度ご相談いただけるとうれしいです。